音信普通

「続音信普通②」アップしました。

続・音信普通②

 

知らない街でこざっぱりとしたホテルの小さな窓らか、ぼんやりと外の景色を眺めていると、自分がだんだんとその街にとけ込んでいくような気がする。ずっと前にヨーロッパを旅行していた時、特に理由はなかったが、インスブルックに立ち寄ったことがある。インフォメーションで紹介された白を基調としたシンプルなホテル、すっきりとした街並み、日曜日には完全に閉まってしまうマーケット。これらは、その旅には欠かせない気がした。予定を変更して何泊かそのホテルに留まり、だんだん行動範囲を広げていった。地図無しで、路面電車に乗り降りできるようになった頃、街の空気を肌で感じた。

昨年は偶然だが、中国と韓国に少し長めに滞在する機会があった。北京、長春、鞍山市、そして、ソウル。コンサートに招聘されたり、コンクールの審査をしたり、バタフライの海外公演のお手伝いをさせていただいた。同じホテルに1週間滞在すると、いくつもの出会いがあり、想い出深い経験をした。

「昴が流れるアトリエ」

そのひとつ。昨年6月の初旬、中国遼寧省にある鞍山師範学院を訪問した。中国でもかなり北に位置する遼寧省は、南には北朝鮮との国境があり、さらに北に進めば、ハルピン。冬はマイナス20度以上になるという北の街だが、私が訪れた季節は、花が咲き、心地よい大陸の風が吹いていた。

数年前、教育学部の大学院に留学していた于广壮君が、この学院のピアノ科主任になり、コンサートとマスタークラスのレッスンに私を招聘してくれた。到着すると、ちょっと広めの主任用オフィスのデスクに座り彼は、「先生、来てくれてとてもありがとう。でも、予定していた新しい音楽ホールの椅子が、まだ入っていないですよ。違う会場になるけど、大丈夫ですよ」。案内されたのは、大学キャンパス内にある美術館。そこの館長でもある、王登科教授の協力を得て、急遽グランドピアノが運びこまれ、美術館は特設ホールになった。仮設ステージは、フォルテでピアノを弾くとぐらつき、演奏中に船酔いになるのではないかと、私は心配したが、于君は一言、大丈夫ですよ。

会場を包み込むように、王教授の作品がずらりと展示さる中で、なんとか演奏会は無事に終了した。書家としても有名な王先生の作品は、人物を描いたものが多く、掛け軸に描かれた子どもたちは、のどかで優しい表情をしていた。

演奏会終了後、アトリエでお茶をいただきながら、お話を伺った。京都に1年間留学をされた王教授は、日本語もお上手で、アトリエには、谷村新司の昴が繰り返し流れていた。日本が大好きだという王教授は、その夜私たちを夕食会に招いてくれた。お酒を酌み交わし話が進むと、ギターを片手に、まるで京都にある大きな寺の住職のような深い響きのある声で、懐かしそうに昴を歌ってくれた。弾き語りは、中国の曲からエーデルワイスまで飛び出し、歌があふれる何とも素敵な夜だった。この3月に、王先生と于君を長崎に迎え、演奏会を企画している。そして、会場には、王先生の中国画をぐるりと張り巡らそうと思っている。

2011126

長崎県音楽連盟運営委員長

堀内 伊吹

【2011/02/07】
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